ゲルマニウムラジオの原理
2016/09/28
この記事は ゲルマニウムラジオの製作 の続きとなっています。まだ製作編1をご覧になっていない方は、先にそちらをご覧ください。
ゲルマニウムラジオの構成要素
ゲルマニウムラジオは下の回路図の通り、同調回路・検波回路・音声出力回路の3つの構成要素からなります。
それぞれについて、詳しく説明していきましょう。
同調回路
同調回路は回路図の通り、コイルとバリアブルコンデンサのLC並列回路となっています。同調回路の仕組みを解き明かすカギは「インピーダンス」になります。
インピーダンスは電気の流れにくさを表す指標になります。
以下、同調回路のインピーダンスを物理学的に求めていきますが、理解には複素数の知識が必要です。 もしわからなければ、下の「インピーダンスの大きさが周波数によって変わる」まで飛ばしてもらっても構いません。(学部2年生程度の電磁気学の教科書には大抵載っている有名な内容になります)
コイルによるインピーダンスをZL, コンデンサによるインピーダンスをZCとおくと、下の回路図のような形になります。
インピーダンスの並列接続なので、合成インピーダンスdot Zは次のようになります。(一般的な合成抵抗の公式と同じく、逆数の和が合成抵抗の逆数になります。)
したがって、結局合成インピーダンスはdot ZL, dot ZCを用いて
とあらわされます。
また、コイル、コンデンサのインピーダンスは、jを虚数単位、Lをインダクタンス[H]、Cをキャパシタンス[F]、fを周波数[Hz]として次のようにあらわされます。
したがって、これらの式を、上記の式に代入すると、合成インピーダンスを求めることができ、次のようになります。
インピーダンスを直接見るのは難しいので、この式からインピーダンスの大きさを求めましょう。
インピーダンスの大きさを求めるには、一般に複素共役を掛けあわせますが、今回の場合、虚数部のみとなっているので単純に虚数単位をとって2乗したもののルートをとればよいことになります。すると結局、上記の式から虚数単位を取って絶対値記号を付けたものに等しくなります。
つまり、上のコイルとコンデンサの並列接続は、周波数、インダクタンス、キャパシタンスの3つによって可変するインピーダンスということになります。
実際、今回の場合コイルはL=330[μH]に固定し、バリアブルコンデンサでキャパシタンスを可変できるようにしていますので、バリアブルコンデンサを回すことで、インピーダンスを可変できることになります。
インピーダンスの大きさが周波数によって変わる
さて、数式ばかりで面白くなくなってきたので、このあたりでわかりやすく同調回路の真骨頂をお見せしましょう。
次のグラフは、L=330μH, C=110pFに固定した際のインピーダンスの大きさの周波数特性を見たものになります。(上で求められた数式の諸変数に値を代入したグラフになります。)
ご覧のとおり、830kHz付近のみ大きなインピーダンスを持っています。逆にそれ以外の周波数ではほとんどインピーダンスがありません。
すると、830kHz付近の信号に対してはインピーダンスが小さいため、アンテナから入ってきた信号はすべてアース側に流れて行ってしまいます。一方、830kHZ付近の信号については、アンテナ―アース間のインピーダンスが大きいため、アンテナから入った信号は検波回路の方に流れていきます。 結果として、830kHzの信号のみ検波回路の方に流れていきます。 まさに、ある周波数の信号にのみ「同調」して放送を聞くことが出来るわけです。
さて、バリアブルコンデンサは回すことによりキャパシタンスが変化するのでした。 上のグラフでは、C=110pFで描きましたが、C=90pFとすると下の図のようになります。
おお~。キャパシタンスを変化させることで、選択する周波数が変化しました。
このように、ラジオの同調回路においては、キャパシタンスを変化させることで、ピーク周波数の位置を変化させることが出来るという特徴を利用します。すなわち、ダイヤルを回せば聞こえる局が変わるわけですね!
検波回路
同調回路で選択され、検波回路に流れ込んできた信号は「片方向にのみ電流を流す」というダイオードの特性を利用して「検波」されます。
順を追って説明しましょう。同調回路で選択された信号の波形は次のような形をしています。
(軸の名称を書き忘れてしまいましたが、縦軸は電圧です。研究室でこんなミスやらかしたらアウトですね)
この信号がダイオードを通過すると、(理想的には)次のような波形になります。
この波形だけでは音声信号にはなりません。 このギザギザ上半分の信号を音声信号に直すためには、ギザギザの先っちょを滑らかに結んでいかなければなりません。
したがって、本当は一工夫必要なのですが….次の節で説明しましょう。
音声出力回路
今回は音声出力回路はセラミックイヤホンのみで構成されています。 このセラミックイヤホンは、それ自体が大きなキャパシタンスを持っているため、上のようなギザギザ上半分の信号をセラミックイヤホンに印加すると、面白い現象が起こります。
まず、キャパシタンス=コンデンサの容量のことなので、最初のギザギザのピーク(下図中のA)が来たとき、コンデンサは充電されます。そして、放電するまもなく次のギザギザのピーク(下図中のB)が来ます。
そうすると、結局クリスタルイヤホンが再生する音声信号は次のような波形になります。
このようにして、ゲルマニウムラジオは電波を音声に変えるわけですね。
以上、いかがでしたか?そこまで難しい仕掛けでもなかったでしょう? これで今回のゲルマニウムラジオの動作原理の解説は終わりにしようと思います。
もし質問などあれば、お気軽にコメント欄にどうぞ。